2023年現在、将棋界で20歳の棋士が一大旋風を起こしている。
その名も「藤井聡太 竜王」です。
もはや、将棋好きだけでなく、一般の方にも知名度抜群の藤井 聡太 竜王(六冠)。
人気、実力とトップを走る彼が、どれだけ凄いのかはおおよそご存じだろう。
最多連勝 – 29連勝
勝率8割以上 – 4年連続
竜王戦ランキング戦優勝 – 5期連続
竜王戦ランキング戦決勝進出 – 5期連続
四段昇段後の最速九段昇段
最年少タイトル獲得
最年少八段昇段
最年少通算200勝
最年少タイトル防衛
最年少九段昇段
最年少三冠
etc…
もうあげたらキリがないほどの記録を打ち立てており、2023年現在も多数の記録に向かって勝ち星を積み上げています。
そんな藤井 聡太三冠に勝った「振り飛車」はあるのか?
皆さんご存じですか?
今回は、現在プロ棋士には少数派となった「振り飛車」が、藤井 聡太三冠を打ち破った全対局をご紹介します!(2023年4月現在)
是非、将棋好きで振り飛車党の方は、これを見て「まだ振り飛車だって戦える!」と勇気をもらってください。
振り飛車が勝利した全対局
まず前提として、藤井 聡太三冠はプロ棋士になってから勝率は8割以上です。
これは全棋士の中でも唯一です。
(通常棋士は5割。6割でもとても優秀)
その為、そもそも負けた対局が少ないという事を念頭に置いてください。
※段位、タイトルは当時のものです。
2017年
2017年8月4日
第67期王将戦一次予選
▲菅井竜也七段 vs △藤井聡太四段
振り飛車戦型:先手中飛車
振り飛車を指したのは、2021年現在順位戦の最高位であるA級に在籍する菅井七段(当時)です。
先手中飛車から穴熊を組んでいきます。
対する藤井四段(当時)は、急戦で金銀を前線に繰り出し、中央に圧力をかけていく戦法をとりました。
中盤の大駒を取り合う局面では、藤井さんが穴熊迫っていきながらも、やや振り飛車有利で進んでいきました。
終盤では、4九飛車と絶対絶命に見える局面にも、菅井さんが冷静に対応。
そして藤井さんに決め手を与えないように、確実に迫っていきます。
最後は決定だとなる2五角が入って、藤井さん無念の投了となりました。
序盤から作戦勝ちを収めて、そのまま勝ち切る菅井さんの強さが光りました。
【棋譜】2017年8月4日第67期王将戦一次予選▲菅井竜也七段 vs △藤井聡太四段
以下、七手詰めです。(解いてみましょう!)
2017年9月2日
第7期加古川青流戦トーナメント戦
▲井出隼平四段 vs △藤井聡太四段
振り飛車戦型:三間飛車
振り飛車を指したのは、生粋の振り飛車党の若手棋士である井出四段(当時)です。
戦型は井出さんが最も得意としている三間飛車でした。
対する藤井四段(当時)は、左美濃に組んで応戦。
中盤戦の駆け引きがとても難しい戦いになりました。
約100手までは一進一退でしたが、藤井さんが7九飛車と指した手が僅かに疑問手になり、徐々に振り飛車ペースになっていきました。
その後、藤井さんは次々と怪しい手で揺さぶっていきましたが、
玉のコビンを狙った井出さんの攻めが見事に決まり、131手で見事投了に追い込みました。
井出さんの執念が見られた対局でした。
【棋譜】2017年9月2日 第7期加古川青流戦T ▲井出隼平四段 vs △藤井聡太四段
2018年
2018年7月15日
第68回NHK杯 1回戦
▲今泉健司四段 vs △藤井聡太七段
振り飛車戦型:ゴキゲン中飛車
振り飛車を指したのは、史上二人目の棋士編入試験よりプロ棋士になった今泉四段(当時)です。
ゴキゲン中飛車からガンガン攻めていく中飛車で、ギリギリの捌きを見せていきました。
金銀4枚の藤井さんの囲いに駒損覚悟で崩しに行くのが印象的でした。
そして相手の玉を裸にすることに成功。
中段玉をどう寄せていくのかがとても難しく、藤井さんも大駒でしっかり攻防に効かせていました。
しかし徐々に今泉さんのペーストなり、最後は再び玉を端に追いやり投了に持っていきました。
攻守が目まぐるしく変わる、160手の大激戦でした。
【棋譜】2018年7月15日第68回NHK杯 1回戦 ▲今泉健司四段 vs △藤井聡太七段
2018年9月3日
第44期棋王戦挑戦者決定トーナメント
▲菅井竜也王位 vs △藤井聡太七段
振り飛車戦型:ゴキゲン中飛車
振り飛車側は、約1年前にも快勝した菅井王位(当時)。
序盤から5筋、8筋で激しいぶつかり合いになります。
菅井さんが鮮やかに駒を捌くと、藤井さんも角を縦横無尽に使ってきます。
100手くらいまでは、やや振り飛車有利なものの、ほぼ互角で進行していきました。
しかし互いに相手玉付近に大駒が集まった117手目に、
菅井さんが指した1八玉が鮮やかな玉の早逃げとなり、リードを拡大していきました。
そこからは藤井さんの粘りを振りほどいて、2二角でゲームセット。
菅井さんの気づきずらい玉の早逃げが、本当に見事でした。
【棋譜】2018年9月3日 第44期棋王戦挑戦者決定T ▲菅井竜也王位 vs △藤井聡太七段
2019年
2019年3月11日
第90期ヒューリック杯棋聖戦 二次予選
▲久保利明九段 vs △藤井聡太七段
振り飛車戦型:ノーマル四間飛車
振り飛車側は、当時順位戦A級の久保九段。
捌きのアーティストの異名を持ち、振り飛車党の党首ともいわれているトップ棋士です。
三手目端歩と早々とけん制する駒組みでスタートすると、ノーマル四間飛車に組みました。
藤井さんは端歩を受けた形の穴熊に進んでいきました。
しかし、穴熊の1二香を見て、すぐさま久保さんが仕掛けました。
以降、中盤はほぼ互角の形勢で進んでいきます。
そしてさすがは久保さん。
左辺を綺麗に捌いていきました。
そして終盤では二枚龍の形を作り、攻めのターンが回ってくるのをじっと待つ展開。
藤井さんが端歩から果敢に攻めていきました。
しかし途中わずかな緩手が出た途端、久保さんの猛攻が決まり見事勝ち切りました。
【棋譜】2019年3月11日第90期ヒューリック杯棋聖戦 二次予選 ▲久保利明九段 vs △藤井聡太七段
2019年8月22日
第27期銀河戦決勝トーナメント 1回戦
▲藤井聡太七段 vs △久保利明九段
振り飛車戦型:角交換振り飛車
振り飛車側は、振り飛車党のドン久保九段です。
戦型は角交換振り飛車になりました。
(久保九段にしては珍しい)
銀冠に組んでから、後手番ながら久保さんから仕掛けていきました。
またしても角を巧みに使い、どんどん駒を捌いていきます。
藤井さんも攻めていきますが、銀冠と一段飛車がとても働いていて、
なかなか攻めあぐねていました。
そして藤井さんが玉頭から仕掛けていこうとしたタイミングで、
さらに踏み込んで玉を寄せにいきました。
しかし、藤井さんの粘りも凄く、玉を上部に逃がしていき、なんと三段目まで到達。
このまま入玉かと思われましたが、焦らず着実に玉の退路を封鎖していきました。
そして146手目の5五馬で投了となりました。
久保さんの完勝といった内容でした。
【棋譜】2019年8月22日第27期銀河戦決勝T 1回戦 ▲藤井聡太七段 vs △久保利明九段
2019年8月25日
第69回NHK杯テレビ将棋トーナメント 2回戦
▲久保利明九段 vs △藤井聡太七段
振り飛車戦型:立石流四間飛車
振り飛車側は、またしても久保九段です。
戦型は四間飛車の中でも、立石流を採用しました。
NHK杯でテレビ放映だったのもあり、珍しい形を指したかもしれませんね。
端を攻めていく藤井さんに対し、久保さんは馬を作り駒得を狙った作戦に出ます。
しかし、中盤では藤井さんが4筋を巧みに攻めてると、形勢が傾いていきます。
終盤では、藤井さんが勝勢に近い形まで追い込まれました。
しかしここで秒読みで焦った藤井さんが悪手を指してしまいます。
その隙を見逃さず三枚の香車を武器に、端から一気に猛攻をしかけていきました。
最後は14手にも及ぶ藤井さんの王手ラッシュを掻い潜り、薄氷の勝利を手にしました。
まさに大逆転で振り飛車の勝利でした。
(久保さん流石でした)
【棋譜】2019年8月25日第69回NHK杯 2回戦 ▲久保利明九段 vs △藤井聡太七段
2020年
2020年10月26日
第70期王将戦挑戦者決定リーグ戦
▲藤井聡太二冠ー△永瀬拓矢王座
振り飛車戦型:ノーマル四間飛車
振り飛車側は、永瀬王座。
近年はガチガチの居飛車党の方ですが、実は奨励会時代や若手の頃は振り飛車党でした。
その永瀬王座が挑決リーグの大切な一局で、意表を突く後手四間飛車を採用しました。
当時、多くの棋士やファンが驚きました。
しかし指し回しはさすがの永瀬王座です。
最短で片美濃囲いを作り急戦に持ち込むと、飛車角交換の捌きから、優勢に進めていきました。
途中に優劣が混沌としますが、馬を引き付けての鉄壁防御を作り、100手あたりで再び優勢に。
最後は必死の受けを見せる藤井二冠(当時)に、秒読みの中、見事に寄せ切り勝利しました。
長時間の対局で後手の振り飛車が勝ったのは、これが初めてでした。
久々に振り飛車を採用したにも関わらず、永瀬王座が本当にお見事でした。
【棋譜】▲藤井聡太二冠ー△永瀬拓矢王座 第70期王将戦挑戦者決定リーグ戦[四間飛車]
2021年
2021年はなんと、、、公式戦で振り飛車が勝った対局はありませんでした。
藤井竜王流石と言ったところですね。
2022年
2022年8月10日
第81期順位戦A級2回戦
▲菅井竜也八段ー△藤井聡太竜王
振り飛車戦型:5筋位取り中飛車
振り飛車側は、今や振り飛車党のエースとして戦い続けている菅井八段。
遂にA級へ昇級を果たした藤井竜王が、順位戦2回戦目で菅井さんとぶつかりました。
過去の戦績では5勝2敗と藤井竜王がリードしているものの、A級順位戦で戦うのはもちろん初めてです。
戦型は菅井八段得意の先手中飛車でした。
急戦模様で始まり、序盤から銀桂交換するなど、激しい主導権争いが行なわれました。
5筋の争いがとても難解となり、一進一退の攻防が続きました。
そんな中、徐々に振り飛車側に戦局が触れていき、60手前後では振り飛車が優勢に。
互いがと金を中心に囲いを崩す展開となり、正確な見切りを見せた菅井八段が一気に抜け出しました。
最後は飛車取りを無視し、17手詰めを見事に読み切り勝利しました。
A級順位戦の厳しさを早々に伝えた対局になりました。
相手に攻めさせて、カウンターを決めるという、振り飛車のお手本のような対局でした。
【棋譜】▲菅井竜也八段ー△藤井聡太竜王 第81期順位戦A級2回戦[5筋位取り中飛車]
2023年
2023年4月23日
第8期叡王戦五番勝負 第2局
▲菅井竜也八段ー△藤井聡太叡王
振り飛車戦型:三間飛車
遂に藤井竜王と振り飛車対局が、タイトル戦で行われました。
A級順位戦でも勝利した菅井八段が、叡王戦の挑戦権を獲得し、藤井叡王への挑戦となりました。
先手番で選んだ戦型は三間飛車でした。
菅井流三間飛車など独創的な三間飛車も持っている菅井八段が選んだのは、意外!?にもノーマル三間飛車でした。
相穴熊からじっくりした戦いになると思いきや、菅井八段が早々に7五歩と突き石田流を見せると、その後藤井叡王が何度も長考に沈みました。
藤井叡王が8筋の歩を突き捨て、攻撃に出ようとした隙を見逃さず、菅井八段が丁寧な捌きを見せ一気に優勢を築きました。
(後に藤井叡王は見落としがあったと話していました)
そこからは悪手が一つもなく、形勢を決定的なものにすると、終盤の入り口では既に大差がついていました。
終盤のねじり合いに発展することなく、藤井叡王が投了。
菅井八段の振り飛車が完勝する形となりました。
解説者からもこれほど圧倒的に藤井叡王が負けるのは、数年見た事がなかったというほどでした。
タイトル戦という大きな舞台で、全振り飛車党の想いが実った快勝譜でした。
▲菅井竜也八段ー△藤井聡太叡王 第8期叡王戦五番勝負 第2局[三間飛車]
まとめ
藤井 聡太三冠に勝利した振り飛車の対局は、なんと…
わずか「10局」でした!!
菅井八段 4勝
久保九段 3勝
永瀬王座 1勝
井出五段 1勝
今泉五段 1勝
しかも、2021年は、振り飛車には負けなしという恐ろしい結果でした。
前人未到の藤井六冠を応援していきたい気持ちと、振り飛車党が活躍してほしい気持ち。
正直複雑な心境です。
ですが、若い世代の棋士にまた振り飛車党が増え、戦法も見直されています。
まだまだこれから振り飛車の熱い戦いが観られそうです。
2023年4月現在では、叡王戦の五番勝負で菅井八段が振り飛車党を背負って藤井叡王と対局中です。
これからも引き続き、振り飛車を応援していきましょう。
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